新規事業はたった一つの気づきから。

#2 登下校ミマモルメ

小坂 光彦

1994年入社
(株)ミマモルメ/代表取締役・社長

阪神電気鉄道(株)に入社後、情報システム部(当時)/アイテック阪神(株)(現:アイテック阪急阪神(株)) にてシステム開発、阪神電気鉄道(株)社長室(当時)/CM統括部にてPiTaPa関連サービスの企画開発、経営管理・M&Aを担当。その後、経営企画室にてミマモルメを起業、新規事業推進室にてプログラボを起業し、「あんしん事業・教育事業」を統括。2017年10月1日より、事業拡大に伴い新たに(株)ミマモルメを設立し、「あんしん事業」および「教育事業」を担当。

西岡 克馬

1999年入社
(株)ミマモルメ/事業部長

阪神電気鉄道(株)に入社後、不動産事業本部の建築担当として経験を積んだ後、経営企画室、新規事業推進室を経て、2017年10月1日より(株)ミマモルメにてあんしん事業部長に就任。

※掲載情報は取材当時(2017年)のものです。

Prologue

登下校時に子どもが校門を通過すると、保護者に自動でメールが送信される「登下校ミマモルメ」。このサービスが画期的なのは、ランドセルなどにICタグを入れたまま利用できる点。ハンズフリーだから従来のICカード式によるタッチ忘れがなく、また自動メール配信によるプッシュ型通知であることから、保護者が意識しなくても子どもの登下校状況の把握が可能となっている。

「登下校ミマモルメ」は、社員による新規事業立ち上げをバックアップする「起業支援制度」がきっかけで生まれた事業だ。ひとりの社員がこの制度に草案を応募したことで、今や多くの小学校に導入されるに至った。しかし、その立ち上げと浸透には紆余曲折があったという。

※阪神電気鉄道(株)における制度

小さなアイデアが一大プロジェクトへ。
新規事業がスタート

改札機を通過すると、その情報が保護者にメール配信される「あんしんグーパス」。そこから着想を得て生まれたのが「登下校ミマモルメ」だ。「あんしんグーパス」の利用者から寄せられる感謝の手紙を見るにつれ、このサービスをもっと発展させることができないかと考えていた小坂。電車通学の子ども達以外にも、徒歩で学校に通う子どもにも広く利用してもらえるサービスへとブラッシュアップするための試行錯誤が始まった。

小坂
「あんしんグーパス」を利用するための大前提は、電車通学であること。すると対象者は自ずと遠方の私立学校に通う子ども達になってしまいます。しかし私には、これだけ社会に貢献しているサービスならもっと世に広めるべきだという思いがありました。この仕組みを公立小学校にも広めるためにはどうすればいいか。そう考えて作成したのが「登下校ミマモルメ」の骨子案です。学校設備の設置費用はすべて当社負担とし、学校予算やPTA会費の拠出を不要に。さらに、忙しい学校の先生方の業務負担を増やさないという点も重視してサービスを組み立てていきました。まずは阪神沿線の公立小学校をターゲットに据え、安心できる街づくりの一環として社内の「起業支援制度」において、アイデアを提案。沿線価値の向上にもつながるこのサービスは、いかにも鉄道会社らしい新規事業を提案できたという自負がありました。この骨子案は無事会社に承認され、私は従来の業務に加え、経営企画室で「登下校ミマモルメ」のプロジェクトを兼務することになったのです。

“阪急阪神”の信頼感が、
縁をつなぎ初受注を生んだ

プロジェクト発足時に新規事業・沿線活性化チームに在籍していた西岡も、「登下校ミマモルメ」のプロジェクトに参加。2010年5月に会社承認を受け、6月にはシステム稼働、7月にはモニター校の営業を開始したものの、非常に順調な技術面の構築に反し、導入には高いハードルがあったという。

小坂
当時「登下校メール」を導入していた学校は全国的に見てもごくわずか。「登下校メール」という概念自体が一般に認知されていない状態でサービスを導入してもらうには、小学校を地道に訪問するしかありませんでした。それこそ、夏場は文字通り汗だくになりながら多くの小学校を訪問しました。使ってもらうことで初めて良さがわかるサービスですから、根気よく周知に努めることが欠かせなかったんです。
西岡
導入の鍵となったのは、とある小学校のPTA役員でした。私がかつて不動産事業本部で企画設計を担当した住宅を、その役員の方が購入されていたらしくて。住宅をとても気に入ってくださっていたことがきっかけとなり、公立小学校での初受注にこぎつけました。住宅担当時にそのPTA役員の方との直接の面識はなかったものの、当社が手がける事業のクオリティの高さ、そして信頼感が受注につながったと実感できたのが嬉しかった。また、この最初の導入実績が他校にもサービスの良さをより明確に伝える糸口となり、その後は、少しずつですが確実に受注が増えていきました。

保護者の声に耳を傾け、課題を解決。
潜在ニーズに応え、成功へ

「登下校ミマモルメ」が広がったカギは、従来型のタッチ式サービスの課題を克服していたことだ。「タッチ忘れでメールが来ない日もあり余計に不安になる」という保護者の声をヒントに、潜在ニーズに応えたことが圧倒的な導入の起爆剤になったという。

小坂
従来型のタッチ式サービスで問題視されていたのが、タッチ忘れにより通知が届かないことでした。そこで「登下校ミマモルメ」では、校門を通過すれば自動でメールが送信される仕組みを整え、タッチ忘れそのものが起こらないようにしました。さらに保護者への通知の手段をメールなどのプッシュ型とし、子どもも保護者も意識せずにサービスのメリットだけを享受できるようにしたのです。実際に利用していただくまでは大変でしたが、導入が始まった小学校では保護者、学校関係者ともに好評を博しました。利用者が増えるにつれ、サービスの良さが口コミで広がり、「登下校ミマモルメ」という言葉が浸透していくのを肌で感じましたね。
西岡
口コミで広がっていく様子を目の当たりにして、このサービスは多くの方のニーズをとらえていたんだと実感しました。導入の苦労はありましたが、「これは世の中にとって必要なサービスなんだ」という自信が生まれ、さらなる浸透を目指すモチベーションにもつながりました。

事業の始まり、
それを創るのは人の情熱

軌道に乗ってからの浸透は早く、今では芦屋、尼崎、西宮の全公立小学校が「登下校ミマモルメ」を導入している。西日本のみならず全国にもその波は広がるが、果たして、ここまでの成功を収めた理由は何だったのだろうか。

小坂
「登下校ミマモルメ」は沿線内だけでなく沿線外、東日本への広がりを見せ、現在、有料会員数は20万人を超えています。同様のサービスを提供している事業者のなかでは、我々が1歩リードしていると言っても過言ではないでしょう。しかし、この事業の始まりは正解が見えないなかでの事業構築でした。私自身、正解がないなかで新しいものを創り上げるのが好きということもありますが、“阪急阪神”には積極的に新規事業を提案できる環境がある。だからこそ、この成功があったのだと思います。
西岡
「登下校ミマモルメ」がここまで浸透したのは、ベースに当社ブランドの安心感があったから。個人が発案したアイデアと当社ブランドを融合することで、大きな成果を生み出せたのがこのサービス。「登下校ミマモルメ」はまさに我々ならではのサービスだと感じています。これからも技術の進歩やニーズに応じて柔軟に変化を続け、時代に応じた最適なサービスを創出していきたいと思っています。
小坂
新規事業を立ち上げるうえで最も大事なのは情熱です。時間をかけて精緻に理屈や数字を積み上げても、携わる人に情熱がなければ絶対に成功しない。「このサービスは社会に必要だ」という思いが自分の腹に落ちているかどうかが重要なんです。「登下校ミマモルメ」をベースに、「登降園ミマモルメ」「ミマモルメGPSサービス」「まちなかミマモルメ」と展開してきましたが、今後も情熱を持って提供できるサービスを生み出していきたいと思います。