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阪神沿線は、みんなで"編集"していくもの——『エンカチ』が育てる、人と人の「縁」と「価値」
阪神電気鉄道の沿線では、地域の魅力や人と人との"縁"をつなぎ、みんなで沿線の価値を育てる取り組みが進んでいます。まちの"ほんまもん"の魅力は、そこで暮らす人の日常のなかにあるもの。阪神電気鉄道の沿線価値創造の取り組み「エンカチ」について、名前に込められた思いとともに、その舞台裏をのぞいてみましょう。

《PROFILE》
山﨑 由貴子(やまざき ゆきこ)
阪神電気鉄道株式会社
沿線価値創造推進室 沿線活性化担当 兼 ブランド経営推進室 副部長
(所属や肩書は2026年7月時点のものです。)
「エンカチ」って、なんだろう?
「エンカチのエンには、沿線の"沿"、人と人とを結ぶ"縁"や"円"の意味を重ね、カチは"価値"を表しています。WEBサイトも同じ名称で運営しており、さまざまな情報を発信しています」。そう話すのは、阪神電気鉄道の沿線価値創造推進室で沿線活性化を担当する山﨑由貴子さん。
沿線価値創造推進室は、自治体・大学・企業・地域とともに子育て応援や阪神間の文化の醸成、まちづくりなど幅広い取り組みを進めています。

サイトやパンフレットは、人やまちをカラフルなイラストで描き、"多彩な街の魅力"や"多様性を受け入れる"思いを込めています。一方的な説明ではなく、『自分もこの沿線の一員だ』と感じていただける表現を目指しました。
「沿線価値創造は少し硬い言葉。だからこそ短く親しみやすく、目的が伝わる名前にしたかった」と山﨑さんは言います。
鉄道会社だからできる、「つなぐ」という仕事
阪神電気鉄道は1905年の開業以来、大阪と神戸を結ぶ約48.9km・51駅の沿線とともに歩み、2025年に開業120周年を迎えました。阪神沿線には、都会の利便性と下町のあたたかさが共存しています。阪神甲子園球場に代表されるスポーツ・エンタテインメントが身近にあり、医療機関や公園、生活利便施設が充実した住環境、そして明治から昭和にかけて花開いた「阪神間モダニズム」を育んできた豊かな文化・歴史的背景など、51駅それぞれが異なる豊かな個性を持つ沿線です。「短い路線の中に多くの駅があり、個性豊かなまちを細やかにつないできた鉄道です。地域に支えられながら成長してきたことが、当社の大きな特長だと思います」と山﨑さん。
その根っこには、阪神グループが大切にしてきた3つの価値——「あたたかさ」「ほんまもん」「先進性」があります。「あたたかさ」はお客様や地域に徹底的に寄り添う姿勢。「ほんまもん」は球場や鉄道のプロフェッショナルとして、質の高い本物を届けたいという誇り。そして「先進性」は、お客様が『こうだったらいいな』と思うことを、少しだけ先取りして実現する気持ちです。
この考え方は、駅を起点に地域と長く関わってきた会社だからこそ生まれたもの。駅という日常の接点を持ち、世代を越えて関わり続けられること。そして都市交通だけでなく、スポーツ・エンタテインメント、情報・通信、建設・環境など多様な事業資源を組み合わせ、地域での幅広い取り組みにつなげられることが阪神グループの強みの一つです。
ただし鉄道会社が主役になることが目的ではない、と山﨑さんは強調します。「地域の人たちと、地域をより良くするために何をしようか、どんなことができるかを一緒に考え、ともに取り組む。私たちはさまざまな人や組織をつなぐ"ハブ"でありたい」。個々の取り組みを点で終わらせず、まるで人や地域、組織をつなぐ"編集者"のような存在と言えますね。
尼崎、武庫川団地......地域とともに"育てる"まちづくり


「つなぐ」役割が形になった代表例が、尼崎の取り組みです。2021年12月に尼崎市と阪神電気鉄道が締結したまちづくり協定を起点に、2023年4月からは阪神電気鉄道を代表とする共同企業体が阪神尼崎駅周辺の公共施設の運営を担い、2025年3月には阪神尼崎駅前の中央公園がリニューアル。芝生広場や飲食店など、ゆったり過ごしたくなる空間が生まれました。
施設は完成して終わりではなく、使われ、交流が生まれてこそ魅力が育つと言われるとおり、「駅前が大きく変わり、住民の方や利用者の方にも喜んでもらえていると実感しています。これまでの活動のなかでも地域との連携が形になった代表的な事例の一つだと思っています」と山﨑さんは言います。
このような取り組みを支えたのは、都市開発という"ハード"と、地域活性化という"ソフト"を両輪で進めたこと。その背景には、沿線不動産開発推進担当が約10年かけて"ハード"の開発を進め、ソフト面も見据えながら、目指すまちのイメージを形にする提案と尼崎市との対話を積み重ねてきた経緯があったのです。

また、地域のパートナーとの"縁"が賑わいを育んでいる例もあります。阪神沿線に多くの賃貸住宅を持つUR都市機構との連携活動では、阪神電気鉄道から引退車両「赤胴車」をUR武庫川団地に寄贈。コミュニティのシンボルとして活用され、「赤胴車マルシェ」などのイベントも実施しています。
立場の異なる相手と一つのプロジェクトを動かすのは簡単ではありません。行政・大学・企業では、大切にする価値が違うからです。「大切にしているのは、違いを無理に揃えず、『この地域をどう良くしたいか』という共通の目的を確認すること。すると、立場が異なるからこそ、一者だけでは生まれない成果があります」。

沿線活性化を"見える化"する入口WEBサイト「エンカチ」
このようにさまざまな活動を多く取り組んできましたが、活動が個別に見え、取り組み全体の目的が十分に伝わらないという課題がありました。
そこで、2023年3月、阪神沿線活性化WEB「エンカチ」を開設し、その後LINEやInstagramによる発信も開始。単なる自社の広報PRではなく、取り組みを"見える化"し、『一緒に何かできそう』と思っていただく入口として、また地域の皆さんと沿線の価値を育てるプラットフォームを目指しています。特長的なのは、自社PRだけでなく、商店街のイベントや地域の小さな取り組みまで"沿線らしい"情報を幅広く扱う点です。
WEB「エンカチ」の中で、ユニークなのが、阪神沿線が好きな人が書き手になる「エンカチライター」。40名を超える方が登録し、研修を受けた後は、基本的に自由なテーマで書いてもらっています。 カレー、立ち飲み、駅の歴史、特定の駅の推しポイント----生活者ならではのニッチで魅力的な情報が集まります。 「私たちでは探せないような、実際に住み、深く入り込んでいる方だからこそ書ける情報ですからね。その人の思い入れや"好き"を突き詰めてほしいんです。ライターさんからも『自分のまちへの愛着が深まった』という声をいただいています」。
また、企業や団体だけでなく、個人からの問い合わせや、地域イベントへの参加をきっかけにした連携も広がっています。山﨑さんも「『まず、阪神電気鉄道に相談しよう。何か形になるかも』と思っていただけるのが、いちばんうれしいですね」と笑みがこぼれます。

次の100年へ——子育て応援と、みんなで編集する沿線
いま山﨑さんが特に力を注ぐのが「子育て応援」です。原点は、2016年から続く親子交流イベント「チアフル親子カフェ」。そこで聞こえた「安心してもっとお出かけしたい」という声に応えるため、2024年4月、沿線ぐるみで子育てを見守る「はんしん子育て沿線 tetotte(てとって)」がスタートしました。「小さいころから沿線を好きになり、そして、親世代になっても住み続けてもらう。長い時間軸でファンになってもらえたら」。

かつて自社主体で開催していた親子向けイベントも、いまでは商業施設やUR都市機構が沿線各地で主催し、阪神電気鉄道が広報で連携する形へ発展。行政や地域団体、企業がテーマを共有し、それぞれが主体的に動き始めています。
こうした活動は、阪急阪神ホールディングスのサステナビリティ宣言が掲げる「豊かなまちづくり」にまっすぐつながります。「豊かなまちには、建物や施設などのハード面の整備だけでなく、安心して暮らせて、子どもが育ち、文化やつながりを楽しめることも大切な要素です。それを特別な活動と切り離さず、沿線の日常をより良くする仕事そのものとして実践する——それが、私たちが目指す沿線価値創造です」。
次の100年に向けて目指すのは、誰もが自分らしく、安心して暮らし、働き、訪れたいと思える沿線。「駅ごとに異なる歴史や文化、人のつながりを均一にするのではなく、それぞれの個性を大切にしながらつないでいきたい。阪神らしい『あたたかさ』『ほんまもん』『先進性』を実感できる具体的な体験をお届けし、『住んでよかった』『働いてよかった』『訪れてよかった』と思っていただける沿線を、地域の皆さんと一緒につくっていきたいですね」。
さあ、あなたも阪神沿線の"編集者"に
『こんなことができたらいいな』という小さな気持ちが、沿線づくりの第一歩です。まずはエンカチのサイトやSNSをのぞき、気になる記事を一つ見つけてみてください。読む、訪れる、発信する、手伝う、提案する――関わり方は一つではありません。
「住んでいるまち」から「自分たちで育てるまち」へ。
一人ひとりの小さな発見や行動が次のつながりを生み、まちの価値を少しずつ育てていきます。あなたも、できることから一緒に、阪神沿線を"編集"してみませんか。