六甲高山植物園の93年——守り続けた命の園が「自然共生サイト」に認定

神戸三宮から電車とケーブルカーで約50分、標高865mへ。六甲山頂付近に広がる「六甲高山植物園」は、1933年に開園し2026年で93年目を迎えた日本最古の民間高山植物園です。2025年9月に環境省「自然共生サイト」に認定された背景や理由を、園内散策しながら学芸員の三津山さんにお聞きしました。


《PROFILE》
三津山 咲子(みつやま さきこ)
六甲山観光株式会社 ミュージアム部 高山植物園課 学芸員 
(所属や肩書は2026年8月時点のものです。)

六甲高山植物園とは——93年続く「世界を集めた園」の物語

1933(昭和8)年、六甲ケーブルの開通翌年に「ケーブルカーで六甲山の自然を楽しんでほしい」という思いから開園した六甲高山植物園は、都市近郊でありながら、世界の高山や北海道や信州でしか見られない植物と出会える場所です。「開園93年になりますが、設立当初から"日本の高山植物園"ではなく"世界の高山植物園"というコンセプトで始めて、ずっと変わっていません」と三津山さんは言います。

海抜865mの六甲山頂付近は市街地より約5℃涼しく、夏も冷涼。広さ約50,000㎡(甲子園球場のグラウンド約4個分)の園内で、約1,500種類の珍しい植物を自然に近い状態で鑑賞できるのが特長です。

「六甲山は標高こそ信州や北海道の高山より低いですが、その条件下で世界の高山植物を集め守ってきました。関西でここにしかない植物もあるんですよ」

実現できたのは、六甲山の谷筋に位置し、一年中、山の水が流れ込む恵まれた地形が、渓流沿いの湿地や岩場などの多様な生育環境を生み出しているからこそ。そして、スタッフの地道な管理があったからこそです。きめ細やかな手入れと自然の恵みが重なって、「世界の高山植物園」は守られてきました。

植物学者・牧野富太郎博士がたびたび訪れ、昭和天皇や上皇(当時は皇太子)、天皇陛下(当時は皇太子)もご来園いただいたことがあるそうです。

自然の地形が生んだ6つの顔——園内をめぐる地球旅行

都市近郊でありながら、北海道や信州・世界の高山でしか見られない植物と出会えるのが六甲高山植物園の最大の魅力です。ロックガーデン【A】・樹林区【B】・湿生植物区〔エンコウソウ区・クリンソウ区〕【C】・高茎草原【D】・湿生植物区〔ミズバショウ区・ニッコウキスゲ区〕【E】・湿生植物区〔ニッコウキスゲ区〕【F】の6つのエリアはそれぞれ異なる生態系を再現し、訪れるたびに違う表情を見せてくれます。


ロックガーデン【A】では、コマクサ・エーデルワイス・シコタンソウなど世界の高山植物を自然に近い状態で観賞できます。人が手を入れ守り続けることで、本来この場所では生き残れなかった植物を93年間生き続けさせてきた歴史が、各エリアに刻まれています。また、ヒマラヤの青いケシは、暑さに弱く屋外での夏越しができないので、夏は冷室で栽培しています。








ヨーロッパアルプスの星「エーデルワイス」
直径1mにもなる「フジアザミ」
開園当初のままのロックガーデン脇にある滝

樹林区【B】は、植物が虫を呼び虫が鳥を呼ぶ「食べる・食べられる・助け合う」連鎖が息づく場所。春はカタクリの群落・新緑・木陰・紅葉と四季折々の景色が楽しめ、ミヤマクワガタやキジの親子も共存しています。

秋は紅葉が美しい
春に咲く「カタクリ」と「エゾエンゴサク」

湿生植物区〔エンコウソウ区・クリンソウ区〕【C】では、開発により失われた六甲山の湿地植物を栽培・保全しています。「サギソウ」など希少な植物が育ち、5月下旬の「クリンソウ」の群落は人気スポットの一つです。

羽ばたくように咲く「サギソウ」
段を重ねるように咲く「クリンソウ」。濃いピンクの花が、湿地一面に広がる様子は圧巻

高原の花畑をイメージし50種が栽培されている高茎草原【D】では、約20年前に熊本県の産山村から種を受け取り園内で育て上げた絶滅危惧種「ヒゴタイ」が咲いています。

環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類の「ヒゴタイ」
ユリの女王「ヤマユリ」

湿生植物区〔ミズバショウ区・ニッコウキスゲ区〕【E】では、自生地の風景を再現することを目指して種から増やして育てたキレンゲショウマの群落が斜面に広がり、春のミズバショウ・初夏のニッコウキスゲとともに一面を彩ります。

湿生植物区〔ニッコウキスゲ区〕【F】では、谷筋に沿って、約2,000株のニッコウキスゲが群生し、夏になると黄色の花が一帯を埋め尽くします。

カルガモの親子や兵庫県版レッドリスト※のモリアオガエルも生息するなど、生き物たちの命をつなぐ6つのエリアは、「生物多様性保全の拠点」としての社会的役割も担っています。

※兵庫版レッドリスト:絶滅のおそれのある貴重な野生生物や地形・地質、自然 景観など、県レベルで保全を図る必要のあるものを18の区分ごとに選定・評価しており、環境影響評価や地域での各種保全活動を行う上での基礎資料として活用されている。 

黄色が鮮やかな「ニッコウキスゲ」
「スイレン」とカルガモの親子

環境省「自然共生サイト」認定——2年がかりの挑戦が実を結ぶ

「自然共生サイト」とは何か

2022年12月の「生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)」で「30by30目標」——2030年までに地球の陸と海の30%以上を健全な生態系として保全する国際目標——が採択されました。日本は2023年度から環境省主導で「自然共生サイト」認定制度を開始。国立公園だけでなく、民間の植物園や企業の社有林なども対象に、生物多様性保全に貢献している区域を国が認定する仕組みです。認定区域は、国立公園に準じる生物多様性保全区域(OECM)として国連環境計画の国際データベースにも登録されます。

2年がかりの調査——「すべての生き物を数える」という挑戦

六甲高山植物園が動き出したのは2023年のこと。認定には「生物多様性の保全に貢献している」という客観的な証拠が必要です。「植物、昆虫、鳥、小動物など、園内にいるすべての生き物の種類を調べて資料にまとめる作業でした」と三津山さんは振り返ります。通常業務と並行しながらスタッフ3名で約2年かけて実施し、昆虫類は「伊丹市昆虫館」、植物・動物全般は「兵庫県立 人と自然の博物館」に専門的に監修してもらいました。

調査データだけでなく、草刈り・イノシシ柵設置・絶滅危惧種の生息域外保全なども「世界の高山植物や絶滅危惧種を育て守る営み」として評価対象となり、2025年9月16日、環境省「自然共生サイト」に正式認定されました。

自然共生サイト認定証

評価された3つの価値——守り続けた動植物の命

① サンクチュアリとしての価値

神戸という都市部に隣接しながら、草刈り・除草・イノシシ柵の設置などを継続することで生まれた「希少な動植物が安心して生息できる聖域」。例えばロックガーデンでは、高山植物は水もちが良すぎると根腐れしてしまうため、水はけが命。冷涼なアルプスと違い、夏に30度を超える六甲山では特別な管理が必要です。排水性の良い土で夏の根腐れを防ぎ、コケや雑草が増えた場所は順番に土を入れ替えるなど、「暑い場所で高山植物を育てるための手入れ」を休むことなく続けてきました。

「人が意識的に手を入れ守り続けることで、本来ならこの場所では生き残れなかった生き物が生き続けてこられた」----その事実が評価されました。

ロックガーデンに根を張る「コマクサ」

 ② 生息域外保全の価値

絶滅の危機にある生き物を本来の生息地の「外」で育て守る取り組みです。「ヒゴタイ」(環境省レッドリスト絶滅危惧Ⅱ類)など複数の絶滅危惧種を栽培・管理し、消えゆく命を未来につないできました。

「キレンゲショウマ」の群落が西入り口で出迎えます

③ 命のネットワークとしての価値

植物→昆虫→鳥→両生類へと連なる多層的な生態系の連鎖が今も機能していることが評価されました。都市近郊では人工的な管理によって生態系が断片化しがちですが、六甲高山植物園は93年間自然に近い状態を保った結果、生きた食物連鎖が息づいています。

1000kmにもわたって旅をする世界的にも珍しい"渡り蝶"の「アサギマダラ」と「フジバカマ」
生息数が極めて少なく"幸せを呼ぶ幻のブルービー"と呼ばれる「ルリモンハナバチ」と「マツムシソウ」

「花の名所」から「生物多様性の拠点」へ——"生きている"を感じに来てほしい

今回の認定を受け、「珍しい植物が見られる観光施設」から「生物多様性保全の拠点」へと社会的役割が再定義されたとも言える当園。「命の園」を守り続ける一方で、変わりゆく現実もあります。

「雨が降らなくなりましたよね。昔は夏の夕立が水やりを担ってくれて、涼しくもしてくれていました」と三津山さんは言います。しかし、近年は温暖化による気温上昇や気候変動が激しく、スプリンクラーや手作業での水やりの頻度がかなり上がっているそうです。

「実は、コマクサもぎりぎり育っている状態。気候変動が進んだら、ヒマラヤの青いケシと同じようにバックヤードの冷室で夏越ししなくてはいけなくなるかもしれません」。

高山植物が直面するリアルな危機を肌で感じながら、「守りながら、見せる」という使命を静かに続けている六甲高山植物園。その現状を知ってもらうために「温暖化や獣害から高山植物を守るための保全の取り組みを、もっとわかりやすくパネルなどで見せられるようにしていきたい」と三津山さんは今後の展望を語ります。

「街から1時間圏内で、野生の高山植物を見られる場所は本当に貴重です。季節ごとに花も園内もまったく違う顔を見せますから、ぜひ季節を変えて何度でも来てください。植物も虫も鳥も——ここには生き物がたくさんいます。〝生きている〟を感じて豊かな気持ちを味わってほしいですね」


六甲高山植物園 施設情報(2026年10月時点)

項目 内容
所在地 〒657-0101 兵庫県神戸市灘区六甲山町北六甲4512-150
電話番号 078-891-1247
開園時間 10:00〜17:00(16:30チケット販売終了)
入園料 大人(中学生以上)900円/小人(4歳〜小学生)450円
駐車料金 1,000円
 アクセス  六甲山上バス「森の音ミュージアム」または「六甲高山植物園」下車 徒歩約1分
 公式サイト  https://www.rokkosan.com/hana/





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