事業等のリスク
当社グループでは、リスクマネジメントを重要な経営課題と位置付け、「リスク管理規程」に基づき、リスクを「グループにおける組織目標の達成を阻害する事象」と定義し、適時適切にリスクを把握・アセスメントして対策を講じる体制を整備しています。このため、当社では、専任部署であるリスクマネジメント推進室を設置するとともに、社長を委員長とするリスク管理委員会を定期的に開催し、リスク管理に関する事項を審議しています。
当社では、当社グループの事業戦略やサステナブル経営の観点を踏まえて、グループ経営上重要かつグループ横断での対応が必要なリスクとして、自然災害をはじめとするリスクを選定するとともに、当該リスクの管理を統括するリスクオーナーを決定し、これらのリスクにグループを挙げて対応するようにしています。また、リスクオーナーが立案及び実施する対策の進捗状況をモニタリングし、適時取締役会に報告しています。
当社グループの経営成績、株価及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものであり、また、これらのリスクは当社グループのすべてのリスクを網羅したものではありません。
(1) 自然災害、事故
- ① 自然災害等について
- 当社グループは、都市交通事業、不動産事業、エンタテインメント事業、情報・通信事業、旅行事業及び国際輸送事業など多種多様な事業を営んでおり、地震や台風等の自然災害、大規模な事故、テロ行為等が発生した場合には、顧客や営業施設への被害及び事業活動の制限等により、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。特に近年、気温や海水温の上昇などの気候変動により、集中豪雨や強力な台風等が増加する可能性が指摘されており、こうした自然災害により上記の影響を受けるリスクが高まってきています。
当社グループとしては、既存設備の維持更新投資や耐震補強工事を実施するとともに、激甚化する自然災害による影響の分析や対応を進めるほか、特に鉄道等の公共輸送に携わるグループ会社については、安全性を最優先にした体制の整備に努めるなど、ハード・ソフトの両面から、自然災害や事故等による影響の最小化に向けた取組を行っています。 - ② 感染症の流行について
- 感染症が広く流行し、往来の制限をはじめ人々の生活が様々な制約を受けることとなった場合、当社グループでは、都市交通事業における鉄道等の旅客人員の減少、不動産事業における賃貸施設の休館・来館者数の減少やホテルのインバウンド・国内需要の減少、エンタテインメント事業におけるプロ野球の試合や宝塚歌劇の公演の中止・入場人員の制限、旅行事業における海外・国内ツアーの催行中止等、各事業において大きな影響を受ける可能性があります。
当社グループとしては、こうした状況下であっても、感染状況に応じた予防・拡大防止措置を講じながら、鉄道等の社会インフラを運営する企業グループとして事業継続に努めるとともに、これらによる影響を受けても持続的な企業価値の向上を実現すべく、収益力の向上と安定した財務体質の確保を図っていきます。
(2) 情報管理
当社グループは、各事業において情報システムを利用しており、事故や災害、社内や取引先における不正やミス、サイバー攻撃等によりその機能に重大な影響を受けた場合、当該情報システムの停止、誤作動等のほか、情報の漏えい等が生じることで、当社グループの事業運営に支障を来すとともに、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。特に、個人情報については、各事業において顧客データ等の個人情報を管理しており、不測の事故等により情報が流出した場合には、損害賠償請求や社会的信用の失墜等により、大きな影響を受ける可能性があります。
当社グループとしては、電子情報セキュリティ基本方針等の社内規程に従い、情報の漏えい、改ざん、不正利用等の防止や情報システムの安定稼働に必要な対策を講じています。特に、当社グループは、重要インフラである鉄道を運営していることも踏まえ、サイバーセキュリティの確保をリスク管理の重要な要素と位置付けており、グループ全体で継続的にセキュリティレベルの強化を図るとともに、行政等の関係機関とも積極的に連携して情報収集に努めるなど、継続的に対策を講じているほか、「グループCSIRT」を整備し、問題発生時に速やかに連絡・対処して被害の局所化を図るとともに、適切な再発防止策を講じる体制を構築しています。また、個人情報については、上記に加え、国内外の個人情報保護に関する法令を遵守するよう、個人情報管理基本方針等の規程を制定し、個人情報の適切な利用と保護を図る体制を整備するとともに、役職員に対する教育等に取り組んでいます。
(3) コンプライアンス
- ① コンプライアンス経営について
- 当社グループは、全てのステークホルダーの期待にお応えし、信頼され、称賛される企業集団となることを目指しており、その前提の一つとなるのがコンプライアンスを重視した経営姿勢であります。万一、コンプライアンスに反する行為が発生した場合は、損害賠償や社会的信用の失墜等により、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。
当社グループとしては、各事業において、会社法、金融商品取引法、労働法、税法、経済法、各種業法その他関係法令の遵守に努めています。また、人権の尊重、腐敗行為(贈収賄等)の防止、税務ポリシー等の各種の基本方針や、企業倫理規程等の社内規程を整備し、これらに従った事業運営を徹底するとともに、当社によるモニタリングを継続的に行うほか、一部の中核会社においては社外出身の役員を取締役会の構成員とすること等によって、グループ全体のガバナンス機能を強化するなど、コンプライアンス経営を推進しています。
また、これらの実効性をより高めるため、役職員等への啓発や教育を行い、その知識や意識を向上させることで、コンプライアンスに反する行為の未然防止を図っているほか、取引先等も利用可能な内部通報制度を設け、コンプライアンス経営の確保を脅かす事象を速やかに認識し、対処できる体制を構築しています。 - ② 人権の尊重について
- 人権の尊重については、当社グループの使命を果たし続けるための基盤であると考えており、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」等を踏まえて、「人権の尊重に関する基本理念」及び「人権の尊重に関する基本方針」を策定するとともに、人権デュー・ディリジェンスにも取り組むなど、「ビジネスと人権」の枠組みに沿った取組をさらに推進することで、負の影響の回避・低減に努めていきます。また、こうした取組をサプライチェーン全体で推し進め、持続可能な社会の実現に貢献するため、2024年4月に「阪急阪神ホールディングスグループ サプライチェーン方針」を策定し、グループ全体で取引先と共に取組を推進しています。
- ③ 業法による規制について
- 当社グループでは、鉄道事業をはじめとして、監督官庁から許可又は認可を受けて事業を行っている会社が多くあります。これらの会社においては、法的規制の変更によって、事業活動が制限され、又は規制遵守のための費用が増加する可能性があるほか、規制に対応できなかった場合には、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受けることがあります。当社グループとしては、規制の変更、新設に関する情報やその影響等を事前に調査・把握し、当社グループへの影響を最小限に止めるよう努めています。
(4) 財務(有利子負債について)
当社グループでは、各事業において継続的に設備投資を行っていますが、これに必要な資金の多くは、金融機関からの借入れや社債等によって調達しています。そのため、今後、金利の上昇・金融市場の変化等が生じた場合や、当社グループの財務状況の変動等に伴って当社の格付が引き下げられた場合には、支払利息の増加のほか、返済期限を迎える有利子負債の借換えに必要な資金を含む追加的な資金を望ましい条件で調達することが困難になる可能性があります。
なお、当連結会計年度末における連結有利子負債残高は1兆2,827億75百万円となっていますが、今後、施設等の安全性の維持・向上に係る投資に加えて、大規模プロジェクトをはじめ将来を見据えた成長投資を予定しており、連結有利子負債が一定程度増加する見込みです。
当社グループとしては、引き続き資金調達の多様化を進め流動性を確保し、金利の固定化を行うことで金利変動リスクの回避に努めるとともに、コストや維持更新投資の削減などを通じて有利子負債の抑制を図りながら、財務体質の健全性の維持に努めていきます。
(5) 政治・経済・社会環境の変動
- ① 保有資産の時価下落について
- 政治・経済環境の大幅な悪化により、当社グループが保有する棚卸資産、有形・無形固定資産及び投資有価証券等の時価が、今後著しく下落した場合には、減損損失又は評価損等を計上することにより、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。
- ② 人口減少等について
- 当社グループが基盤とする京阪神エリアにおいて、少子化等に伴う将来的な人口減少・人口動態の変化から、鉄道、バス、タクシー等に対する旅客輸送需要やその他の各事業における需要が減退することに加え、労働市場の逼迫に伴い働き手の確保が困難になることが想定され、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。
当社グループとしては、沿線における定住人口の増加や、インバウンド需要の取込等による交流人口の増加のための取組に加えて、人的資本への投資を継続してその充実・確保を図るとともに、DXの活用等を通じた生産性の向上に向けた取組をグループ全体で推し進めていきます。 - ③ 地球環境問題への対応について
- 気候変動問題については、温室効果ガスの排出抑制に向けた取組が世界全体で進んでいます。当社グループの主力事業である鉄道は、他の輸送機関と比べて環境負荷が少ないものの、今後、鉄道や不動産をはじめとする各事業において、脱炭素社会や循環型社会に対応するための投資・費用の発生が見込まれるほか、温室効果ガス排出に係る税制の導入や(再生可能エネルギーの促進等に向けた)電力小売単価の上昇に伴って費用が増加する可能性があります。このほか、近年、生物多様性・自然資本の保護や資源循環に向けた取組についても関心が高まってきており、こうした社会への移行に対応できなかった場合には、信用の毀損等に伴う収益の減少や、円滑な資金調達が困難となる可能性があります。
当社グループでは、温室効果ガス削減への対策は持続可能な社会の実現に向けて必要な取組であると認識しており、「サステナビリティ宣言」において重要テーマの一つに「環境保全の推進」を掲げ、脱炭素社会や循環型社会に資する環境保全活動を推進しています。その一環として、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、その開示フレームワークに沿って、「ガバナンス」「リスク管理」「指標と目標」を明示するとともに、「戦略」については、当社グループの事業のうち、特に気候変動の影響が大きいと想定される鉄道事業と不動産事業における「リスクと機会」を特定し、シナリオ分析を進めて財務的な影響の試算等を行い公表するなど、同提言に沿った対応を進めています。また、こうした気候変動に関するリスクと機会を評価・管理するため、グループ共通のKPIとして温室効果ガス(GHG)排出量の削減目標(2035年度目標:GHG排出量2019年度比△60%(2025年3月に新規設定)、2050年度目標:実質ゼロ)を設定するとともに、各事業における個別のKPIを定めるほか、温室効果ガス排出量についてスコープ3の算定・開示や、ICP(内部炭素価格)の設定により各事業における取組を推進するなど、気候変動に対する事業の強靭性の向上を図っています。併せて、生物多様性や資源循環についても取組の方向性を明示し、新たにKPIを設定するなど、事業活動を通じて社会課題の解決に取り組んでいきます。 - ④ 事業環境の変化等について
- 当社グループを取り巻く事業環境の変化はこれまで以上に加速し、ESGやサプライチェーンに関わる分野、CSRへの取組、会社での働き方、株主価値の向上をはじめとした多様な分野において、ステークホルダーからの期待も様々な形で高まってきており、こうした変化はこれからもスピードを増していくことが想定されます。今後、これらの変化に伴って人々の生活が大きく変容した場合には、人々の生活に密接に関わる事業を多く営んでいる当社グループの既存のビジネスモデルが影響を受ける可能性があります。また、鉄道事業については、鉄道事業法の定めにより経営しようとする路線及び鉄道事業の種別毎に国土交通大臣の許可を受けなければならず(第3条)、さらに旅客の運賃及び料金の設定・変更は、国土交通大臣の認可を受けなければならない(第16条)こととされており、こうした変化に応じた機動的な運賃改定等ができない可能性があります。
当社グループでは、こうした状況を踏まえ、2025年3月に策定した「長期経営構想」に従い、「未来のありたい姿」の実現に向けて、グローバルな展開も視野に入れながら、資金や人材と言った経営資源を可能な限り最適に配分し、グループ一体での価値創造を一層加速していきます。
なお、当社グループの「長期経営構想」については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」の「3.優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」「(1) 長期経営構想の策定について」に記載のとおりです。 - ⑤ 国際情勢について
- 当社グループのうち、不動産事業、旅行事業、国際輸送事業等については、海外においても事業活動を行っており、各国の政治・経済情勢の大幅な変動や法規制、紛争又はテロ行為、感染症の流行など、地政学上のリスクを含めた様々なリスク要因があります。また、各国の通商政策の動向等によっては、金融資本市場や国内の景気等が変動するリスクがあります。
これらのリスクのうち、特に地政学上のリスク等については、弁護士やコンサルタント等、専門家の助言を踏まえたリスク分析を行った上で対応に努めています。また、金融資本市場や景気変動等に対しては、情勢の変化を注視し情報収集等に努めるとともに、上記の「(4)財務(有利子負債について)」や「(5) 政治・経済・社会環境の変動」の「④ 事業環境の変化等について」等に記載の取組を推進していきますが、予期せぬ情勢変化が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態等が影響を受ける可能性があります。